木で出来ているギターは、生き物。
出荷時にはまだ少し水分を含んでいた木が、経年によって枯れることにより、その材質が持つ本来の「鳴り」を表現してくれる。
しかし、生き物だけに、手入れや保管には十分気をつけないといけない。
今回は、アコースティックギターやクラシックギターの手入れと保管について、自分自身の経験も含めて書いてみる。
ギター表面が白濁した原因
ギター練習を再開して約半年、日頃弾いているのはフラメンコギターばっかり。
しかし、「基礎はやっぱりクラシックギター」と思い、フラメンコより弦高が高いクラシックギターで、基礎からやり直していた最中のこと。
筆者所有のKODAIRA AST-100のヘッドと裏板が、白濁していることに気がついた。演奏には問題ないが、見た目が良くない。
そこで、白濁の原因について調べてみた。
原因1:塗料の「かぶり」
ギターの塗装には、主に
- ポリウレタン
- ラッカー
- セラック
があり、そのうち白濁現象が出るのは、普及版ギターに多いポリウレタンで、まれにラッカー塗装でも出るそう。
これを「かぶり」という。
かぶりは、溶剤(この場合は塗装)の蒸発に伴う気化熱で空気が冷やされ、凝縮した湿気が水分として塗装表層に侵入することがきっかけで生じる。主に高湿度環境で塗装した場合に起こりやすい。
(出典:日本ペイント「用語解説」より)
国産ギターに多いため、「どこそこの塗装は悪い」といった声がネット上にあるようだが、かぶりによる白濁は、海外生産のギターでもありうる。
調べたところ、筆者が所有するクラシックギターとフラメンコギターは、どちらもポリウレタン塗装だった。しかし、フラメンコギターの方は、側面と裏板はシープレス(白色系)のためわからないが、少なくともヘッド部分には白濁は見られない。
原因2:塗料の化学反応
ポリウレタンは、化学反応により白濁するとのこと。
主に、長期間ギターケースにしまったままにしておいた時に起こる。
ギターケースは、主にベニヤかABS樹脂の外枠に、ギター全体を包み込むように内側にポリウレタンなどで枠を作り、その上にベルベットのようなソフトな生地を貼っているものが多い。それらを接合する接着剤は化学物質だ。
そして、ポリウレタンの枠とギター表面の塗装が、長い間密着したままの状態のため変質して白濁してしまったり、接着剤などから出る有機成分が、シーリング材や目止めと反応して白濁を起こす。
対策としては、長期間しまいっぱなしにはせず、1週間に1度はケースから出して、風通しの良いところに少し置いておくだけでも良い。
白濁の修復方法
ネット上では、
「濡れたタオルを白濁した箇所に置き、その上から高音のアイロンを滑らせると消える」
といった荒技に挑戦する人が多いようだが、さすがに危険だ。下手すると、より白濁が進んだり、最悪は表面が割れてしまう。
直したいなら、購入したショップか、ギター専門店に依頼するのが一番。
リペアの工程では、一度塗装を剥がし、再度塗り直すようなので、ある程度費用はかかる。
全体が白濁してしまったのならともかく、一部だけなら「これもギターの経年の証」とすべきかもしれない。
日頃の手入れ
「ギターは弾き込めば弾き込むほどよく鳴る」
と言われるように、使うことによってギターの材質である「木」が、経年によって良い状態で「枯れて」くる。
ギターは生きているのだから、使ってこそ良い音になっていく。
それだけに、日頃のメンテナンスは欠かせない。
温度と湿度
ギターのトラブルのほとんどは、「湿度」と「熱」に関係するものが多い。
特に湿度については、乾燥しすぎてもいけないし、湿気が多すぎてもいけない。
ギターに適切な湿度とは、40%〜50%。これ以下、またはこれ以上になると、ネックが反ったり、表面が割れてしまったりする。
また、近年の温暖化による猛暑のため、エアコンをかけっぱなしの部屋に置いておくこともよくない。極端に乾燥するからだ。
温度対策も怠ってはいけない。
あまりに高温の場合、塗装が溶け出してしまうことがある。また、寒冷地では結露することもある。
夏の陽射しがさんさんと降り注ぐ浜辺でギターを弾くのは、いかにも「青春」といった感じだが、もってのほか。浜辺では潮の影響も多大で、金属部分が錆びてしまうし、高温多湿の極みだ。
人間にとって快適な環境が、ギターにとっても快適ということ。
塗装していない指板はまめに手入れする
上述の通り、ギターは湿度が大敵。これは、日頃の演奏時でも気をつけるべきこと。
演奏する人の汗は、ギターのあちこちについてしまう。裏板や側面は塗装されているから、すぐにクロスなどで拭き取れば良い。とはいっても、汗がついたままケースにしまえば、やはり白濁の原因となる。
肝心なのは、塗装していない箇所、特に「指板」だ。
指板は、かなり手の汗を吸収している。ここをこまめに拭いておかないと、ネックの反りの原因になる。
また、木(指板)は経年によって伸縮するにもかかわらず、金属のフレットは伸縮しないため、フレットだけ側面に出てしまう「バリ」が生じる。
だから、塗装されていない指板は、オイルで油膜を作っておくこともメンテナンスの一つだ。ギターを弾く人なら、大体使っているオレンジオイルなどで、まめに汚れを落とし、油膜を作っておくことが望ましい。
保管はギタースタンドかケースか
皆さんは、日頃ギターをどのように保管しているだろうか?
ギタースタンドに立てかけて、いつでも弾けるようにしてある?
あるいは、
面倒でも、いちいちケースに入れて、衝撃から守っている?
結論は、人間同様快適な環境下であれば、どちらでもよい。あるいは、甲乙つけることが難しいといった方が、正しいかもしれない。
ここまで書いたように、
- ギターは適正な温度・湿度で保管する
- 長期間ケースにしまいっぱなしだと、表面が白濁する場合がある
- 室内の場合、エアコンの風が直接当たる場所では、極端に乾燥する
からだ。
ギタースタンドの場合、いつでもギターをすぐに手にすることができ、またギターを眺めながら一杯、なんてこともできる。ただし、一定の温度・湿度を保った部屋の場合だけだ。
冬の暖房や、梅雨時期に除湿もしていない部屋では、生き物であるギターは、調子が悪くなる。ネックが反ったり、白濁したり、あるいは割れてしまう。
室内の環境を整えることが難しいのであれば、手にしたい時ある程度の時間はスタンドに立てかけ、そうでない時はギターケースにしまうのが最善の策だろう。
また、地震大国日本では、急な衝撃によって、ギターが倒れてしまうこともあるので、要注意。壁掛けタイプであれば、その心配はなさそうだ。
ギターケースの保管は、筆者が経験したような白濁に気をつけ、最低でも週に1度はケースから出してあげること。
保管の際は、ソフトケースよりもハードケースの方が良い。スタンド同様、急な衝撃の時、ハードケースの方がより安全だ。
人間より長い寿命のギター
「一生モノのギターを手にしよう」でも書いたとおり、まめに手入れをしていれば、ギターの寿命は100年以上にもなる。
人間より寿命が長いといっても良い。
だからこそ、手入れと保管には十分に気をつけて、お気に入りの一本を大事にしていきたい。
あいにく筆者のクラシックギターは少し白濁してしまったが、特にリペアに出すつもりはない。これも「経年」による「味」ととらえ、これから大事にしていこう。
また、フラメンコギターの方は、幸いまだどこも白濁しておらず、また故障もない。
どちらも、製造年から20年は経過している、ある意味ヴィンテージギターだ。大事にしていき、また10年くらい経ったらリポートでもしようか。
コメント
オレンジオイルは、2年前にお店で知り、即試しました。良かった!
貴方の投稿は、読んでいて楽しい。
僕より丁寧でまた、ギターにも‥
自分はアバウトな取り扱いがわりと威張って言うことではなくモットーですが、読んでいて恥ずかしくなる。
ただ、死ぬまで触り続けるものがいて仕事しながら、休み前には、夜中2時ぐらいにテーブル越しに音楽以外も含めてYou Tube見ながら、チューニング合わせて弾かずに抱かえたままなんて時間が楽しくてネ!
3度目のツィーター(つぶやき)ですが、面倒に思われたら、すみません。
では…
3度目のコメント、有難うございます。
面倒とは思いません。嬉しい限りです。
ギターを通じた人と人とのつながり、大切にしていきたいと思います。