毎年、旅行業界は人気の業種のひとつだそう。華やかなイメージと、女性の活躍が多いこの業界は、いつも就職人気ランキングの上位に入る。
しかし、同時に離職率も高い。おそらく、就職前と後のギャップが大きいのかもしれない。
筆者は、この業界に入ってそろそろ40年になるが、「それでも旅行会社は楽しい」仕事だと思う。
すでにこの業界に失望してしまった人には届かないかもしれないが、これから旅行業界を目指す人たちに、この仕事にやりがいを感じ、長く続けてもらいたいと思う。
マイナスイメージが強い旅行業界
「旅行業界 イメージ」で検索すると、どうもマイナスイメージの記事の方が多い。その中には、「ブラック」「きつい」「低収入」といったワードが数多く見られる。
また、「就活の未来」というウェブサイトの「【旅行業界とは】主な業務内容や動向、採用でのポイントを解説」というページでは、「旅行業界に就職するメリットとデメリット」を以下の通り掲げている。
- 好きなことを仕事にできる
- お客様の喜びを身近に感じられる
- 海外に行ける
- 景気に左右されやすい
- 他業界への転職が難しい
- 土日祝日に仕事がある
これを見ると、メリットの方は「なんとなく」なイメージに対して、デメリットははっきりとしたイメージだ。だが、ネットで旅行業界のマイナスイメージを語っているのは、よくよく読んでみると、だいたい業界経験3年未満の人が多く、まだ本当の旅行業界を理解できていないまま転職してしまうのかもしれない。
筆者の経験では、最初は確かにブラック的なところは多々あったし、土日もいろいろ駆り出されるにも関わらず、給料も最初の頃はかなり低かった。また、仕事の後はいろいろな先輩に飲みに誘われ、二日酔いで出社することも…。
しかし、今は時代が違う。
ブラック企業は世間から叩かれ、業務環境は随分と改善されつつあるはずだと思っている。また、業界全体がそうしていかなければならないと感じている。
就活エージェントは本当の旅行業の中身を知らない
今は、就活エージェント会社が乱立する時代。自分で履歴書を書いて、希望する会社の門戸を叩く時代ではないようだ。
そんな就活エージェントが紹介する「旅行業」は、どれも通り一遍。主な職種といえば、
- カウンターセールス
- アウトセールス
- ツアープランナー(商品企画)
- ツアーコンダクター
といった、ネットで調べてきたようなことしか書いていない。決して間違いではないが、実際はもっと複雑多岐にわたる。
例えば、OTA(オンライン・トラベル・エージェント)が増えてきた中、またコロナ禍を経験してきた旅行会社は、実店舗を次々と閉め、カウンターセールスといった職種は消えつつある。
また、旅行会社の花形と言われるツアープランナーは、実際にツアーを企画する職種。旅行会社の中枢と言えるかもしれない。
だが、この仕事は、単なる旅行知識や情報を寄せ集めただけでは成り立たない。
ツアープランナーの「肝」は、いかにコスト計算ができるかどうか、つまり、会社の売り上げに直結する職種だ。航空会社や宿泊施設への交渉により勝ち取る仕入れ価格が、直接反映してくる。
また、旅行会社の表の花形ツアーコンダクターは、今やほとんどが外注で、自社社員を添乗員にすることは少なくなってきている。
一方、就活エージェントの業種紹介では、全くといっていいほど書かれていない旅行業の職種の一つに、「手配」がある。または、仕入担当という職種だ。文字通り、航空座席や宿泊施設の部屋を交渉して仕入れる職種で、ツアープランナーと兼業で行っているところもあるだろう。
しかし、おそらく大手旅行会社はオンライン化していて、一般社員が「手配」という職種に就くことはないのかもしれない。
「大手の就活エージェントだから安心して相談できる」
は、一見あっているようで、実は旅行業の本質を知らずに紹介しているかもしれないので、注意が必要だ。
就活エージェントが語る旅行業以外にも、旅行会社にはさまざまな職種がある。ツアープランナーやコンダクターといったイメージだけが先行しがちなので、例えば知り合いに旅行業に携わる人がいたら、よく話を聞いた方が良い。
収入以上に価値がある!旅行業界の実際のメリット
そんな旅行業界でも、収入だけでは測りきれない働く価値やメリットがある。
全ての旅行会社に共通することではないかもしれないが、筆者が感じた、旅行業界で働くメリットを紹介してみよう。
業界(またはその家族)のみの優待旅行がある
まずは、実質的なところから。
「研修旅行」と銘打って、業界の人だけに提供される特別料金の航空券や宿泊施設、あるいはツアー仕立ての優待旅行が数多くあることだ。
旅行の仕事に携わる人は、多くの旅の経験があった方がいい。そのため、自身の研修も兼ねていろいろなところを旅行してほしいという考え方から、各サプライヤーや旅行会社が設定する。今はどうかわからないが、コロナ前までは、年中何かしらの優待旅行のお誘いがさまざまなところからあった。
優待旅行を利用していろいろな旅行体験をすることは、その人自身の業界人としての糧にもなる。平均より多少給料は少ないかもしれないが、その分、旅行という余暇に支出する費用を抑えることができるというわけだ。
自分でツアーを企画・集客・添乗までできる
これは大手旅行会社ではできないかもしれない、限定的なメリット。
小さな旅行会社では、自分で行いたいと思う旅行を自身で企画し、自分で営業して集客して、添乗員として同行することもできるかもしれない。
筆者がこの業界に入りたての頃、所属した小さな会社では、実際に自分で企画した旅行を、最初から最後まで担当させてくれた。学校を卒業して1〜2年の社員に、このようなことを担当させてくれる会社は、かなりの太っ腹だったかもしれない。
その時は、自分や友人のつてを使い、学生向けの沖縄旅行を企画した。そして、きちんと収益率まで計算して、無事ツアーを終了させることができた。これは、筆者自信にとって、旅行業界で仕事を続ける自信に繋がった。
「旅行」という体験がもたらす人生の充実
一般的な企業でも、国内外の出張が多い会社はある。しかし、旅行会社は、それ以上に国内外のさまざまな土地へ、仕事として訪問することが多い。
特に海外。
昨今は、海外旅行へ出かけないという若い人が増えているそうだが、日本とは明らかに違う環境や文化を目の当たりにする機会は、決してネットの世界では体験できない。
どこかの航空会社広告のキャッチフレーズに、「五感で旅する」というような言葉があった。筆者自身も、お客様への案内として、その土地で触れる風、あるいは味や匂い、体験自身が、本当の旅の喜びだと、さりげなくお伝えしている。
これは、旅行業界にいる人たちにも通じることだ。オフィスでは決して体験することができない旅先での体験は、言葉にはできなくても、必ずその人の糧になる。
まして、旅行業界にいる人なら尚更だ。
仕事で出会えたさまざまな人との繋がり
これも一般企業でも経験できるだろうが、国内や海外のさまざまな人との出会いは、人生にとってとても重要だ。
スポーツイベントと旅行を取り扱う会社に一時在籍した筆者は、そこで海外のスポーツイベントに関わるさまざまな人と出会った。中には、全世界の(いい意味で)スポーツを牛耳るような人と関わったこともあった。
その時に出会った人との繋がりを大切に、独立した後そのパイプで、他の旅行会社とは一味違う、今の仕事ができている。
例え、企業の一社員であっても、仕事先で出会った人との繋がりは大切にすべきだ。それが、後々の自分の人生に関わってくるかもしれないからだ。
独立起業できる
旅行業界のいちばんのメリットは、独立起業しやすい業種ということかもしれない。
筆者自身、この業界を目指した理由の一つは、独立起業することだった。
もちろん、何もなしに独立起業できるわけではなく、国家資格「旅行業務取扱管理者」を取得してからの話となる。それに、国家資格を取ったからといって、すぐに会社を作れるわけでもない。
その人自身の努力は必要だ。
筆者が独立起業したはなしは、以下noteでも書いているので参考まで。
だが、学生の時から国家資格取得という一つの目標を立てることができ、それに沿った人生設計がしやすいのは、旅行業界という業種ならではかもしれない。
旅行業界は楽しい〜まとめ
これは筆者自身の持論だが、コロナ禍を経てなかなか需要回復できなかったり、旅行会社の存在意義自体が問われているにも関わらず、決して旅行業界はなくならないと考えている。
なぜなら、以下のような日本人の弱点が変わらない限り、旅行会社の存在価値はあり続けると思われるからだ。
- 英語に弱い
- 他人任せ
- コミュニケーション力
大手ならともかく、筆者がこの業界に入った頃から、中小以下の多くの旅行会社が潰れてしまったり、淘汰されたりしてきた。旅行会社は長続きしないと思われがちだが、決してそんなことはない。
コロナ禍を経て、各旅行会社は今、本来の企業力を試されている。しかし、上述の通り、この業界自体はなくならない。
旅行会社で仕事をすることは楽しい。これは、疑うことのできない真実。
だから、安心してこの業界に飛び込んできてほしい。
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