少し、本業の旅行の話をしようと思う。
毎年、「今年絶対行きたい海外の国」や「死ぬまでに訪れたい世界の絶景」など、さまざまな海外ディスティネーションのランキングが発表されている。
また、インスタグラムの流行により、旅行にも必ず「インスタ映え」する場所が、旅行を決定する要因の一つになってきている。
しかし、近年は旅行に求めるものが少し違ってきたようだ。
タイトルの通り「体験=エクスペリエンス」が、これからの旅行のトレンドとなるだろう。それはなぜかを追及してみる。
訪日外国人に見る体験型旅行
海外からの訪日外国人を見るとよくわかることがある。
以前は京都、奈良、鎌倉など風光明媚な都市、あるいは日本の歴史文化に触れられる町を訪問する外国人が多かった。
ところが近年は、SNSの発達により、日本人が思いもよらなかった町をネットで見て訪問し、そこでしか体験できないことを体験している。
また、訪日外国人は宿泊に余計なコストをかけないのが通例で、これまたネットでリーズナブルなゲストハウスや民泊を上手に探して旅行費用を節約し、そのかわり自らの体験にお金をつぎ込む。
ひるがえって、日本人はどうだろう?
相変わらず、海外のゴージャスな一流ホテルに宿泊することを良しとし、航空会社は日系にこだわり直行便志向、海外のセレブが訪れたというレストランで同じものを注文する。
それ自体悪いと言っているのではない。
旅行費用のほとんどをゴージャスなホテル代や経由便より割高な日系の直行便のみ、というのが、大方の日本人の旅行のしかたではないだろうか?
もちろん、体験が伴っていないわけではない。しかし、比重がどこにあるかで、訪日外国人と日本人旅行者は違っている。
結局、画像(インスタグラム)は虚像
インスタグラムの流行は、「インスタ映え」という言葉を生んだ。
旅行でも、美しい風景に限らず、写真として映える場所や物をひたすら撮影して、インスタグラムにアップしている。
絶景を他の人に紹介すること自体はいいことだ。筆者も、自社サイトで美しいヨーロッパの街並みの画像をアップしている。
しかし、画像はもはや「虚像」でしかない。
なぜなら、インスタグラムと同時に画像加工アプリが発達し、ネット上に溢れている画像の半分以上は修正・加工済みの画像、つまり虚像である。
そうなると、ある修正・加工した旅行先の画像を見てそこに行きたいと思った人を、結果として欺くことになっていることに気付いている人はそう多くはない。
まして、Google Earthで世界中の町の小さな通りまでネットで見ることが出来るようになっていても、それは「リアル」ではない。
しかし、実際に行きたい所へ赴き、写真に収めることはできない旅行者それぞれの「体験」は、間違いなく「リアル」だ。
「リアル」には、そこの風、暖かさや寒さ、心地よい香りや匂い、味覚が伴う。それは、決して画像に収めることは出来ない。
そして、そこでしか「体験」できない、五感の旅だ。
訪れるだけではない旅行「体験」とは何か?
では、「リアル」を求めて、旅行に出かけたとしよう。旅先では美しい風景、おいしい食事、仲間との楽しいひと時、日本にはない何かが待っている。
ところが、ともするとインスタグラムにアップするために写真を撮りまくり、その都度アプリで加工してはアップする作業ばかりに没頭していると、すぐに旅の終了が訪れてしまう。
気がついたら、何をしに高い旅費を支払って出かけたのか、わからなくなってくる。そんな旅行をしたことはないだろうか?
出かけただけでは「体験」したことにはならない。
では、そろそろタイトルの「体験=エクスペリエンス」がなにかについて、書いてみよう。
訪日外国人が日本で体験することといえば、
着物を着て街を歩いたり、
けっして観光客が行かない普通の町中の居酒屋で、地元の人達と一緒に騒いだり、
日本の象徴の山、富士山に登ったり、
といった、そんな簡単なことだと思う。
そして、日本人が海外へ出かけて体験することは、日本にはないような壮大な自然の中を歩いたり、自転車で駆け抜けたり、時には山を登ったりすることだろう。透明なビーチで思い切り遊ぶといったことだっていい。
そこでは、世界の中心は間違いなく「自分」だ。
「体験」するということは、常に自分が「中心」にいる、ということに違いない。
そしてそれは、画像にしたらすぐに過去のものとなる。つまり、「瞬間」ということになってくる。
「自分」+「中心」+「瞬間」=「体験」であり、それは虚像ではない。
自分の財産になる体験、そして経験
フィルムで撮った写真は色あせてしまうが、デジタル写真はいつまでも色あせない。だからみんなインスタグラムを利用するのだろう。
しかし、上記の通り画像は虚像で、「リアル」ではなく、取ったそばから「瞬間」ではなくなる。
瞬間のリアルである「体験」とは、形にできないものだ。
しかし、形で残すことが出来なくても、その人その人の「経験」となって、それが財産となる。
英語では「体験」も「経験」も、同じexperiense(エクスペリエンス)だ。
写真にばかり残す旅行ではなく、その瞬間体験したことで実感する醍醐味をもっと感じてもらえれば、旅行業に携わるものとしてうれしく思う。
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